修理する権利

誰もがGenius : AppleはDIY修理用のパーツとツールを提供予定

Removing an iPhone battery at home

 2022年初旬に、これまで不可能だった修理が可能になるでしょう。iPhoneのスクリーンをAppleから直接購入して、Appleの修理マニュアル(必要に応じてツール)を参照しながら交換し、Appleの診断ソフトウェアを使って完全に元通りに動作させることができるのです。それを叶えるために、わざわざAppleの正規サービスプロバイダプログラムに加入する必要もありません。

 この画期的なDIY修理の発表は、私たちのようなあるスキルをもつ集団に対する、非常に例外的な譲歩と言えます。Appleは長い間、一般ユーザーにApple製品を修理させることは、ユーザー側にとっても、製品にとっても危害を与えるものだと主張してきました。しかし、現政権がリペア市場に新たな関心を寄せている今、さらにパーツのペアリング問題に対する世界中から悪評を買う結果となり、Appleはユーザーに自分で修理させるという、想定外の関心が高まってきたようです。 

 2022年初旬より、Appleは米国内の個人ユーザーを対象に、iPhone 12およびiPhone 13のディスプレイ、バッテリー、カメラを含むパーツおよびツールを販売します。このプログラムは、より複雑なパーツのiPhone修理やM1 MacBookにも拡充されるようです。パーツやツールはAppleの”セルフサービス リペア オンラインストア”より購入でき、サービスマニュアルや修理を完了させるソフトウェアの一部にもアクセスできるようになるでしょう。

iFixit創設者であるKyle Wiensは、iFixit分解エンジニアのTaylor DixonとAppleのセルフサービスリペアプログラムについて、iFixitや修理する権利についてどういう意義があるのかディスカッションしました。

 これは誰にとってもビッグニュースですが、とりわけ私たちiFixitは興奮しています。遡ること2003年、iFixit共同設立者のKyle Wiensが自分が所有していたiBookを修理しようとしたところ、そのサービスマニュアル閲覧を阻止されたことからストーリーは始まります。来年、Appleがこのプログラムを導入すると、初めてiPhoneの修理マニュアルが一般公開されることになります。(2019年にAppleで正規サービスプロバーダー向けに作成されたiMac用マニュアルの公開を巡り、社内の意見の食い違いが明らかになるという物議を醸し出しました ) 今後公開されるAppleのDIYマニュアルには、Appleの正規サービスプロバイダ向けの情報と同じ内容を含みながらも、一般ユーザーを意識した分かりやすい内容に修正されることを期待しています。

 当時大学生だったKyleが、初めてiBook用の修理マニュアルを書いてから約20年経ちました。Appleは、私たちの多くが自分で修理できる技術的なノウハウを持っていることをやっと認めてくれました。

Image from Apple's diagnostic software
A 2017モデル用の診断ソフトウェアのスクリーンショット。パーツ交換後のTrueToneやTouchID機能を回復させるために使用されます。

 この動きによって、Appleや他のメーカーが”修理する権利”に対して意義を唱えてきた多くの議論が無効になるはずです。しかし責任は誰が負うのでしょうか?私たちはリスクを承知で修理するので、デバイスを破損したり、手の平にドライバーが刺さったとしても、Appleを訴えることはないでしょう。デバイスの保証はどうなるのでしょうか?DIY用の修理プログラムが始まることで、保証を無効にすることは違法です。しかし私たちは危惧しています。Appleプログラムは、自分で修理をしたいユーザーに対して、保証期間は確保されることを明確にするべきです。

 もちろん、重要な注意点もあります。この新プログラムは、私たちが”修理する権利”を求めて取り組んできた、オープンソースによるリペア革命ではありません。Appleが既に展開していて、様々な制限があるために評判が芳しくない独立系修理プロバイダプログラム(IRP)をモデルとしています。このIRPプログラムに加盟している2人から聞いた話によると、現時点では、彼らはAppleの修理ソフトウェアを使って、壊れたパーツを他のAppleのデバイスから取り出した純正パーツと交換することはできません。つまりAppleが提供する交換パーツとデバイス本体のシリアル番号をスキャンしてキャリブレーション(調整)する必要があります。これは、パーツ回収に手慣れた整備士や修理テクニシャン達にとっては大きな制限がかかります。Appleの公式ソフトウェアを使って、 バッテリーの健康状態やTrueTone機能を回復したり、Appleから購入していないパーツに対する“非正規”パーツへの警告を削除できるかどうか公表されていませんが、その可能性は極めて低いでしょう。

 また、Appleは、デバイスの修理を拡充させていくほどの利益を確保していません。IRPのメンバーは、IRPで購入できるパーツの価格が、一般のリペア市場の価格と比べて利点が低いと不満を漏らしています。現在、IRPプログラムでiPhone 12のスクリーンを購入して、交換後の壊れたスクリーンをAppleに返送する場合、約235ドル(約25000円)かかります。単純にスクリーンを購入する場合は約270ドル(約28500円)かかります。(彼らによると、この半年間でパーツの価格は若干下がったようです)IRPとこのセルフサービス修理プログラムの両方で、Appleに修理を委ねるという金銭的なインセンティブが組み込まれています。しかし、Appleが推奨する修理マニュアルが無料で公開されるのは、何物にも代えがたいメリットと言えます。

iPhone 12 Screen Removal

 高額であろうとなかろうと、欲しい人に正規パーツを提供することで、Appleはシリアライゼーションによってパーツの制限を正当化できます。バッテリーカメラディスプレイの交換時に警告メッセージが表示されたり、機能を失わないための”正当なやり方”があるとすれば、サードパーティ製のパーツや、他のiPhoneから回収したパーツの使用に対して、Appleは背を向けるでしょう。

 パーツ市場をコントロールできれば、Appleはデバイスの製造中止時期についても決定できます。そしてIRPメンバーに新製品の発売後5年から7年間はパーツ提供を約束しています。しかし、パーツの供給を完全にコントロールできれば、この約束を1-4年短縮することが可能になります。これを阻止できるのは、修理する権利しかありません。修理する権利が進むフランスでは、スマートフォンの修理パーツを5年間提供することが法律で義務付けられています。現在、他国でこのような義務はありませんが、 米国連邦議会国内27州、そして世界中でこの権利を巡って戦っています。

本日公開されたAppleの発表では、”リペアビリティ向上”のために製品を設計しているという表現があります。これはAppleが”リペアビリティ”という言葉を使った数少ない例です。しかし同時にニュースリリースの中で、セルフサービスによる修理はAppleにとって大きな新戦略ではなく、あくまでも許容範囲内に留まることを明らかにしています。”大多数のユーザーにとって”、Appleの正規修理プログラムは”最も安全で信頼性の高い修理方法”であると締めくくっています。

だからこそ私たちは、Appleや他のメーカーが誠実であるための法律を求めて戦い続けます。最後に、私たちがずっと前から判っていたことをAppleが認めたことに感激しています。誰もがiPhoneを修理できるGenius-天才なのです。