今年のApple Eventは、熱い魂が込み上げてこない空虚さを感じたのは私だけでしょうか?以前のApple Eventは、オシャレな製菓会社が新商品の発表を芸術性の高いミュージックビデオに取り込んでいるかのようでしたが、最近のApple Eventは何と言っても”宣伝広告”に始終しています。
もしかすると、Appleの新マーケティングチームによるものかもしれませんし、新モデルの”救命”という新機能を強調するために、よりシリアスなトーンで表現しようとしたのかもしれません。しかし単純に考えれば、派手にテクノロジーを発表する時代は終わったのかもしれません。新しいコンセプトも尽き果て、毎回同じ儀式が続います。
たしかに、AIやコネクティビティ、さらにはバッテリー駆動時間や演算速度に至るまで、驚異的な技術の進展もありました。しかし今では、どのメーカーのどのデバイスでも次のような文言を連発しています。こんな発表会ビンゴは面白くありません。「去年よりX%多く、去年よりY%速く、Zはこれまで以上に凄い!」といったフレーズが予測通りに使われて、失笑する毎に退屈さは増し加わります。
私が最後にメーカーの製品発表で驚かされたのは、Microsoftの最高製品責任者がステージ上でSurfaceデバイスを開き、文字通り、デバイス上部を軽々と一瞬で開いたことでした。彼は「自宅で試さないでください」と軽い警告じみた言葉は一切言いませんでした。その代わりに”サービスのしやすさ”、”リペアビリティ”という言葉を述べました。今までの製品発表の場では耳にしたことがなく、予想すらできなかった言葉でした。
Microsoftに驚かされました。

これは、以前に私たちがこれまで採点した中でリペアビリティスコアで、唯一0/10(修理は不可能)と評価したノートパソコンです。
ゴリアテがやっと目を覚ましたような気分でした。私のiFixitでのキャリアの中で、初めてメーカーが公然と、そして堂々と私たちの意見に賛同してくれたのです。それだけでなく、とても新鮮でした。今まで誰もやったことがなかったからです。Appleなら、そんな事はありえないでしょう。その瞬間、Microsoftは市場のリーダーとなり、テック業界に影響を与える存在となりました。私たちには、そのような企業がもっと必要です。
私は長い間、iFixitで働いています。iFixitは最大のオンライン修理データベースで、自由にアクセスでき、誰でも編集可能で、広告はありません。修理に関する情報共有をサポートしたり、分解を通じて製品の構造を調べるために活動しています。私たちは、ハイテク巨大企業の資金がどこへ流れているか明らかにし、製造メーカーが修理しやすいスマートな設計を考慮しなかったことに焦点を当てたいのです。地球の住人として、そして母親として、世の中の物事を改善することに関心があります。同時に私はライターでもあり、アイデアや知識を売ることも私の仕事なので、マーケティング担当者たちに親近感を覚えます。はっきり言うと、私たちはこれまでのような製品発表に飽き飽きしています。今は変化する時期ではないでしょうか。
2022年の製品発表で、わずかなカメラの改良に焦点を当てるべきではありません。最新iPhoneが若干改良されたカメラを搭載することは既に分かっていることです。同じことが、改良されたチップや、新たに施されるアルミニウム仕上げなどにも当てはまります。2022年こそ、テック製品の発表は修理がどれだけできるか、持続可能かどうか、再利用ができるかどうかなど、本当に重要なものに焦点を当てるべきです。
このことを念頭に置いて、私は理想的な製品発表のためのレシピを共有しましょう。マーケティング担当者の皆さん、これはパラダイムシフトを起こすようなブルーオーシャン・アクションです。それは時間や修理に起因します。
Quality=Longevity

消費者にとってより重要な情報は、30時間のバッテリー連続使用時間でしょうか?それとも5年間のバッテリー寿命でしょうか?なぜ、数百万というストレージ容量ではなく、メガピクセルで画像を計測するのでしょうか?そもそも、この数字は目に見えないソフトウェアの複雑さなしには何の意味もありません。Samsungの携帯電話の24MPとiPhoneの24MPは違って見えるでしょう。携帯電話の電波状況によって、バッテリーの寿命も変わってきます。
もっと意味のある指標を選びましょう。
私が使っている携帯電話のバッテリー寿命が30時間と言われていますが、一体どれくらいの年数使えるのか知りたいです。整備士が “1日6時間まで “というタイヤを売りつけようとしたらどうでしょうか?私はバッテリーが大統領の任期よりも長く使える高品質なものであるか知りたいのです。Star Warsの鑑賞マラソンに耐えられるかもという指標は要りません。
さらに大切なのは、クラウドにバックアップする前に、息子の写真を何枚携帯電話に入れられるか教えてください。何年分のテキストメッセージを保存できるか自慢してください。ある結婚式に出席した時、花嫁介添人のスピーチで、iMessageのテキストメッセージが自動削除されていたことを嘆いていました。彼女は、新婦が新郎に初めて会った日のことをメールで伝えてくれたのを鮮明に覚えていましたが、そのテキストメッセージはずっと前に削除されていました。私はギフトのアイデアをテキストで保存しているので、常にテキストを検索しています – 長い間手をつけていない数ヶ月前のリンクはとても貴重です。
このような数字は現実社会に叶っています。私たちにとって重要な数字です。しかしAppleやその他メーカーは、ビットやバイト、ナノメートルといった退屈で理論的な世界の中に囚われています。 今こそ耐用寿命とサステイナビリティを消費者に売り込むべきではないでしょうか。
OK、マーケティング!深呼吸をしましょう。使用年数が5年あるいは10年の携帯電話を販売することに心配しないでください。販売状況が良くなくてもがっかりする必要はありません。しかし聞いてください、ユーザーは携帯電話をより長く使い続けています。たとえ永遠にその携帯電話を使わないとしても、5年間使える携帯電話は、2年間使えるものよりも明らかに優れた品質です。これは確実にセールスポイントです。

Jony Ive氏(前Appleデザインチーフ)は、品質が重要であるということを正しく理解していました。人々はゴールドの時計を欲しがり、身につけると気分が上がります。しかし使用期限付きの時計は要りません。Apple Watch Editionは、JonyとAppleの最大の失敗作であり、ド派手な金メッキされた使い捨ての電子機器の塊でした。Rolexは単に原材料の品質だけで価値が高いわけではありません。Rolexは、長い年月を経ても変わらず時を刻む耐久性があるからこそ価値があります。Rolexは修理をしながら使い続けることができるブランドです。iPhoneを孫に譲る人はいないでしょう。一方で人々は高性能なランニングシューズに多くのお金を費やします。
モノが摩耗するのは世の常です。しかし、あなたが買った製品が競合メーカーのものより長持ちするのであれば、あえて話題にしましょう。
修理は次のフロンティア
どうすれば耐用年数を伸ばせるでしょうか?一言で言えば 修理することです。2022年に聞きたい理想的な製品発表は、リペアビリティを前面に押し出したものです。なぜなら、ここに秘密があります。修理はスーパーパワーです。若さの泉とタイムトラベルが合体したようなものです。修理はたった一度の修理で、3年間使える携帯電話のバッテリーを2倍の6年に変えることができます。修理は不老不死の薬の一種とも言えます。
過去10年間でiFixit.comのユーザーたちは、私たちの修理ガイドを使って何百万件もの修理に成功していますが、まだ訴訟沙汰にはなっていません。私にはある疑念があります。自分の携帯電話を修理する人なんているのでしょうか?オイル交換を自分でしている人はいるのでしょうか?もちろん全員ではないですが、誰にでも選択肢が与えられています。家のドライブウェイや車庫で子供と一緒に修理をしながら時間を過ごすことができますし、地元のオートバックスやカーディーラーに予約をして、自家用車を預けることもできます。
与えられた選択肢の評判は、その製品を購入するかどうかの判断材料になります。BMWはメンテナンスにお金がかかると誰もが知っています。HONDAは信頼性が高く、基本的にどこのお店でも修理が可能だと誰もが知っています。家電製品では、Energy Star社の製品は何十年にもわたって消費者に十分な製品情報を公開しており、多くの消費者は正しい製品を選ぶことができて節約に繋がりました。そして今、フランスが修理に関して同じことを導入しはじめました。(来年にはベルギーもこれに加わるかもしれません)
ここでちょっと余談。Appleが、iPhoneで映画撮影ができるとか、Apple Watchで登山家が山頂に到達できると言うのはインパクトはありますが、少し不誠実な気がします。Appleはエベレストに挑戦したことのある4,000人や、北極を訪れる年間1,000人に売るために何百万ドルも開発に使っているわけではありません。彼らは”冒険家”に憧れる人たちに売っているのです。ですから、私が「修理をしたい」と言った時に、それを疑う人は映画を作りたい人やトライアスロンに挑戦したい人を思い浮かべてほしいのです。修理という行為は、他のどんな願望とも同じです。Appleは登山用具を売っていませんが、交換のバッテリーは確実に売ることができます。

—ここに立つ勇敢な登山家
しかし、理論上の消費者について話すには、現実社会の規制について話しをしなければなりません。
「修理する権利」を取り巻く緩やかなムーブメントが活性化してきました。フランスでは製品にリペアビリティスコアの表示を義務付け、ニューヨーク州やコロラド州では電子機器の修理する権利を積極的に推進しており、「修理の時代」はもう目の前まで来ていると言えるでしょう。
Appleは独自の修理ネットワークを立ち上げています。私たちはSamsungやGoogle、Microsoftと純正部品の販売で提携しています。モメンタムは十分です。製品発表の際には、リペアビリティを盛り込んだ驚異的ニュースを強調するはずです。Googleは、次の新Pixelモデルの発表時に修理に特化したアピールをする可能性はあります。しかしPixelモデルには一つ素晴らしい機能があるのですが、あまり効果的に宣伝されていないようです。その機能とは耐用年数を延ばす素晴らしい内部設計と交換用パーツの手に入れやすさです。
グリーンウォッシング(見せかけのエコ)は終焉ー未来への計画
気候変動は現実のものです。リサイクルについて語ることは、新しいことでも、美徳でもありません。環境保護活動は、私たちが呼吸している空気と同じ当たり前のことです。ビジネスにとって有益ですが、ありきたりな発表になります。技術革新は、紙製の包装やカーボンオフセットよりも、さらに先導するものでなければなりません。
テック系企業が製品発表に採用すべき「削減(Reduce), 再利用(Reuse), リサイクル(Recycle)」の最新スキームを紹介しましょう。
削減(Reduce)はマーケティング部門では明らかに不評を買うでしょう。しかし”再利用(Reuse)”に焦点を当ててみみると、5年使える携帯電話は高品質であることを意味し、ユーザーたちは5年が経過する前にアップグレードすることができます。つまり5年持つ携帯電話を2回アップグレード、あるいは少し修理を加えると3回売ることができます。iPhoneは比較的修理がしやすいので、修理が可能なだけでなく、利益を生むという大きな利点があります。買い取り制度を使って、どれだけエネルギーを削減できたか自慢しましょう。またNPOや教育機関に整備済みデバイスを割引価格で提供することもできます。誰もがWin-Winです。
リサイクルは身近でわかりやすい概念である一方、環境には負荷のかかるモンスターに成長します。リサイクルはロスが多く、ロジスティックが複雑で、プロセスに時間がかかります。リサイクルは長い代替案フローチャートの最後の手段にくるべきです。製品発表に欠けているRはRepair(修理)です。

修理は与え続けることができるギフトのようなものです。修理は再利用を可能にします。修理は無駄なリサイクルを先延ばしにしながら、リサイクルを非常に簡単にし、雇用を創出し、製品の認知度を向上させ、リペアビリティ規制にメーカーを立ち返らせます。ここで修理を賛辞するポイントは無限にあります。「私たちの部品ネットワークは、X万件の独立修理ショップをサポートしています。私たちの新しい設計により、製品寿命は驚くほどY%伸び、製造に伴うCO2排出量はほぼZ億トン削減されました。また、使用済み製品のリサイクルでは、これまでよりも短時間でN%多くの材料を再生できるようになりました。」
製品発表の場で、そんな内容を耳にしたことはありますか?そんな話が出てきたらじっくりと聞き入ってしまうでしょう。
短くまとめると、最近の新製品発表は意味のない技術仕様を羅列しただけになっています。新製品の発表が実際の耐用年数や製品寿命の延長、修理に対応し、環境を配慮したものになれば、インパクトを与えるニュースとなるでしょう。新しい10年が始まります、過去から未来へ、黒いオベリスクをグリーンな道標に変えましょう。最後の最後に残るのは、腐った卵です!
翻訳: Midori Doi
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