
テクノロジーの世界では、様々な意見が飛び交っています。例えば、iPhone派かAndroid派か、AMD派かIntel派か、XboxユーザーかPlayStationユーザーなど…。しかし静電気放電(ESD)のインパクトに関する激しい論争に比べれば、比べ物になりません。ネット上のフォーラムを覗くと、驚くほど様々な意見が飛び交っています。あるグループは平然と「これまで2500台以上のコンピューターを組み立てて、触れた全ての部品にESDショックを与えてきたけれど、壊れたPCは一台もない。」と自慢をしています。また別のグループは「いつもPCを触る前に、埋めた鉄の杭に固定した導線を体に巻きつけている。」と冗談混じりで話しています。
意見は千差万別ですが、ESDをめぐる議論は一般的に科学や論理に基づくというよりも、趣向や迷信に基づくことが多いようです。 ESDに関する文献は、硬い専門用語が多く列挙されていて、電気工学の学位を持っていない私たちには言葉の障壁があるのも事実です。この奇妙にも偏ったテーマをよりよく理解するために、調査と発見の旅に出かけることにします。皆さんにも、良い気づきがあるはずです。
いくつかESDに関する重要な質問を考えてみました。
- ESDとは何?
- 静電気が発生する原因は?
- ESDとは注意すべき存在か?
- 修理や交換の際に、電子部品をESDから保護するためには?
ESDとは何?

を擦って、機嫌の悪い母親にショックを与える…など、このような衝撃的な現象はすべて静電気放電によるものですが、中にはそれほど衝撃が少なく、危険性が低いものもあります。静電気放電協会(ESDA)ー正真正銘、ESDAは静電気放電を専門に扱う非営利団体ですーによれば、ESDは「高静電場によって引き起こされる、急速で自然な静電荷の移動」と定義しています。さらに詳細に見てみましょう。
簡単に言えば、ESDとは蓄積された静電気がほぼ瞬時に放出されることです。静電気については、多くの人が無防備にドアノブを触ってショックを受けたことがあるように、直感的に理解できるはずです。しかし摩擦という単純な行為が、どうやって静電気を発生させるのでしょうか?
チャージ! ESDが発生する仕組み
私たちが魔法のような空の怒り以外にも電気を理解する以前から、古代ギリシャの思想家ミレトス出身のタレスが琥珀を毛皮にこすりつけ、埃や葉が不思議とその石に引き寄せられるのを観察していました。事実、”電子-electron”という言葉も、琥珀を意味するギリシャ語の”Ēlektron”から派生したものです。タレスが残したであろう詳細な文書は長い年月の中で失われてしまいましたが、彼は自分をゼウス的な半神と思い込んでいたであろうと推測するのは妥当かもしれません。なぜなら、今となってはその現象は単純な摩擦ーより専門的に表現するなら摩擦帯電ーだということを知る術もなかったからです。
2つのものが擦れあった後で離れるとき、一方はプラスに帯電して電子が不足し、もう一方はマイナスに帯電して電子が過剰になります。この状態で素粒子は中性に戻りたがり、隙あらば戻ろうとします。この急激なバランス調整によって、バチバチという静電気ショックが生じます。
バチバチよりも重大なこと
ほとんどの場合、多少の静電気ショックは大したことではありません。多くの作り手たちはESDを特に意識することなく、何の問題も経験したことがないはずです。一見無害に見えますが、指先から発生する極小のアークスプリングは最大35,000ボルトにもなり、デリケートな電子部品を損傷したり破壊したりするには十分すぎる電力になる可能性があります。CompTIAによると、一部の電子部品は30ボルトでも損傷する可能性があるとのことで、これは特に注意しなければならない事実です。

1970 年代にマイクロチップが普及するまで、内蔵のESD保護機能についてはあまり検討されていませんでした。しかしそれ以来、設計レベルの保護機能は劇的に改善されてきました。一方で部品のミニチュア化が進むにつれて、ゲート、ピン、端子が互いに接近し、静電気による損傷の危険性が高まっています。一般的に部品が小さくなればなるほど、ESDの影響を受けやすくなります。そのため、マイクロチップの製造メーカーは、外科医が衛生管理を行うように、真剣にESD対策に取り組んでいます。
ESDは真面目に対処すべし
マイクロチップの製造施設では、大部分の技術者たちは静電気防止スーツに身を包み、静電安全靴を履いて接地マットの上で作業を行い、静電気防止ブレスレットを着用しています。当然のことながら、施設には厳しい湿度管理や雷サージ対策がされており、さらに静電気蓄積のリスクを軽減するためにプロトンを吹き出すイオン化装置も設置されています。皆さんはESDをどの程度深刻に受け止めているか分かりませんが、メーカーは深刻に受け止めていることは間違いありません。どれほど細心の注意を払っても、静電気による平均的な製造損失は8-33%もあり、毎年何十億ドルにものぼる収益損失をもたらしていると、業界のリーダーたちは見積もっています。それはメーカーだけの問題で、私たち一般人には関係ない…のでしょうか?
それは大きな間違いです。「前にESDなんて考えもせずに作業をしていたら、チップ1つか2つにバチバチと静電気が当たってしまって…でも、問題ないみたい。」と思っているかもしれません。ここで良いニュースをお知らせしましょう。致命的な故障を避けることができたようです。同時に悪い知らせもあります。あなたの生き残った部品には、技術メーカーや修理業者を悩ませる「潜在的な損傷」がつきまとうかもしれません。
部品が完全に壊れてしまうのは非常に残念なことですが、少なくとも何が原因で故障したのか、なぜコンピュータが起動しないのかを知れる経験となります。一方で、潜在的な損傷は時限爆弾のようなものです。
危険な静電気の発生によって、数百万個あるゲートのうち、わずか数個が壊れてだけで、その部品は数週間、数カ月、あるいは数年間、問題なく機能するかもしれませんが、いつまでもそうとは限りません。何年も問題なく動作しているハードウェアをトラブルシューティングしようとは誰も思いませんし、電子顕微鏡でもない限り、うっかり部品を傷めてしまったことを確認することはできません。潜在的な欠陥は性能を不安定にさせ、最終的に部品が壊れてしまえば、非常にストレスの溜まるトラブルシューティングを経験をすることになります。
結 論: 体を接地しましょう
オナイザーで調整された環境を作り、アースマットの上で導電性の靴を履いてから始めるべきでしょうか?備えあれば憂いなしです。しかし一般的な修理テックは、作業スペースをキャンプファイヤー場にしたり修理工場をESD破壊工場にするような危険は冒しません。冬仕様のカーペットが敷かれたスキーロッジの中でウールのソックスとポリウレタンを身につけて、RAMスティックを振り回しながら走り回るのでなければ、自分自身以外のものを静電気によって破損してしまうことはまずないでしょう。

たとえ爆発や破損する危険性がないプロジェクトであれ、ESDには真剣に対策を講じる必要があります。加えて安心を得るということは、お金に換えがたい価値があります。適切な予防策をせず、あるいは少なくとも健全な常識を身につけなければ、ESDはあなたの愛してやまないデバイスを故障させてしまう可能性があります。特にESDはマザーボード上のものを破壊します。
つまり基本的なESDの安全対策をすることは、電子製品の修理でシートベルトを着用するようなものです。もし、このシートベルトをせずに運転しても何も問題なく目的地に到着できる場合もありますが、そうでない場合、急ブレーキに耐えられない私たちの体はウインドシールドから飛び出してしまうでしょう。あなたのグラフィックカードは中古のHONDA シビックと同じくらいの価値があるため、ただの壊れたRGBボックスにならないように注意を払わなければなりません。
ESDを回避する最善の方法
静電気防止のギアを使用し、ワークスペースを準備する。
- ブレスレット、指輪、時計などの金属製のアクセサリーは外します。
- ワークステーションを接地し、接地された静電気安全ブレスレットを身につけると、部品に感謝されるでしょう!
- アース(接地)マットを敷いてから、静電気防止ギアやデバイス、分解した部品を上に置きます。
- 特にデリケートなデバイスを扱う場合は、靴下を脱いで加湿器を付けてください。湿度が高いと、静電気放電の可能性と強度が劇的に減少します。
- デバイスをアースマットの上に置き、アースクリップを塗装されていないメタル製の表面に取り付けるか、アース付きコンセントのピンに差し込みます。
一番大切なのは常識。

- 手元に静電気防止の環境がない場合はできるだけ動きを制限して、作業を始める前に机の脚やキャビネットなど、大型で塗装されていないメタル片に触れてください。
- カーペットの上では絶対に工作や改造、修理を行わないでください。常にテーブルやワークベンチなどの安定した表面上で作業を行いましょう。
- すべての部品は、取り付けの準備が整うまで、静電気防止バッグ/トレイの中に入れて保管します。
- 部品を取り扱う際には、できるだけ端子に触れないでください。
つまり過去の事例から学ぶこと、まずは座って深呼吸をして自分自身とデバイスをしっかり接地してから、修理を楽むことが大切です。
0 件のコメント