列車が走り続けるように、「修理する権利」のムーブメントは大きな勢いを増しています。行き着く先は、すべてのデバイスが修理可能になり、不要な電子廃棄物が大量に発生しない未来です。この1年、大西洋を挟む両岸で、リペアビリティ(修理のしやすさ)に関する法律が可決されました。来年は、さらに多くの法律が制定されることでしょう。昨年12月にセキュリティ研究者によって修理されたポーランドの列車のように)「修理する権利」列車は軌道に乗っています!
電子機器を対象とした「修理する権利」が米国で現実のものとなりました。2023年、ニューヨーク州、ミネソタ州、カリフォルニア州は、電子機器の保守、診断、修理のためのスペアパーツ、修理マニュアル、専用のツールを一般ユーザーが入手できるよう義務付ける法律に署名しました。(さらに、コロラド州では史上初の農機具を対象とする修理する権法案が可決され、メイン州では自動車の修理権を保護する法案が84%の得票率で可決されました)
カナダもこの動きに加わりました。ケベック州は2023年11月、消費者保護法を改正する法案29を可決しました。フランスに倣い、デバイスの計画的陳腐化を禁止し、消費財を修理する権利を創設しています。
そして欧州では、新しいリペアビリティに関する法律が可決されました。スマートフォンやタブレット端末は、最低限の修理を可能にする設計義務があります。そして間もなく、電子製品に交換可能なバッテリーを装着する設計が標準化されます。2024年末までには、一部の電子機器にUSB-Cポートの搭載が義務付けられます。
2024年、米国ではより多くの州で修理する権利に関する法案が可決される見込みで、既に20州以上で法案が提出されています。そして、欧州ではさらに多くのデバイスが修理する権利の対象となる予定で、台湾とベルギーは、近いうちにリペアビリティ指標を採用する計画を発表しています。
デバイスの修理しやすさは、法律のおかげでますます現実味を帯びてきています。しかし、このような立法制度がデバイス所有者にどんな何を意味をもたらすのでしょうか?そして今年、私たちは何を期待できるでしょうか?
ニューヨーク州は現在、電子機器メーカーに対し、メンテナンスや故障診断、修理のために必要な修理マニュアル、部品、工具の提供を義務付けている。
米国の軌跡とそれが消費者に意味するもの
米国における「修理する権利」運動は、2022年末に「デジタル公正修理法(Digital Fair Repair Act)」が署名されたニューヨーク州が主導しています。これはリペアビリティにとって重要な動きで、同州は現在、電子機器メーカーに対し、これらのデバイスのメンテナンス、故障診断、修理マニュアル、部品、ツールを一般に提供することを義務付けています。ユーザー、リース業者、独立した修理業者はすべて、これらのリソースを合法的に利用できます。この法律は2023年7月1日以降に製造された、10ドル以上のデジタル電子機器が対象で、家電製品、医療機器、自動車、電動工具、農機具は除外されます。
ニューヨーク州
2023年7月1日以降に製造された携帯電話をニューヨーク州内で購入した人は、正規サービスプロバイダ(アップルストアなどのメーカー直営のサービスセンター、またはメーカーが契約している修理センター)と同じ修理をDIYで行う権利を得ました。自分で選んだ独立した修理業者に修理を依頼できます。例えば、壊れたスクリーンの交換用パーツと、その修理情報やツール(ソフトウェアとハードウェア)をメーカーに要求することができます。メーカーは現在、無償でデジタル形式の修理マニュアルを提供することが義務付けられており、スペアパーツやツールは適正な価格で入手でき、迅速に提供されることが求められます。これら情報へのアクセスは制限がなく、強制的なトレーニングプログラムや製造者の許可は必要ありません。つまり、ユーザーや独立系修理業者は、正規の修理業者と同じ修理情報や部品、マニュアルに、等しくアクセスできます。
この法律により、ニューヨークでは修理マーケットが開放されました。競争の激化によって、修理は経済的な選択肢としての地位を獲得し、新製品を購入するよりも良い選択肢となるはずです。そして、所有者は、自分のデバイスを好きなだけ長く使えるようになります。

2023年、カリフォルニア州、コロラド州、ミネソタ州、メイン州で修理する権利法が成立。コロラド州法は農機具を、メイン州法は自動車データを対象としている。
ミネソタ州
ニューヨークのニュースから数カ月後、ミネソタ州はそのムーブメントに飛び乗りました。2023年5月24日、ミネソタ州知事は「デジタル・フェア・リペア(Digital Fair Repair Act)法」に署名し、同州にある1万もの湖を「1万件の修理が可能な州」と例えました。同州で販売されている電子機器および家電製品(食器洗い機、システムキッチン、洗濯乾燥機など)は、メンテナンス、故障診断、修理のためのマニュアル、部品、工具を一般ユーザーに提供することが義務付けられます。ミネソタ州法は、ニューヨーク州の要件とほぼ同じです。しかし、ミネソタ州デジタル公正修理法の下、新たに3つの重要な要件が追加されました。第一に、修理する権利の対象に家電製品を含む最初の州となりました。これは、洗濯機のドアロックの修理代金に高額費用を請求されたり、コード巻き取りの修理ができずに掃除機を捨てるしかなかった人にとっては、大きな安心材料となります。第二に、修理エコシステム(部品、工具、マニュアル)は、製品の販売から60日後に利用できるようにする必要があります。そして第三に、この法律には対象期間を遡及する内容が盛り込まれました。法律は2024年7月1日に施行されるものの、対象は2021年7月1日以降に販売された製品が含まれます。
これは、洗濯機のドアロックを修理するために高額の請求書が届けられたり、掃除機のコード巻き取り機構が壊れて、捨てるしかなかった人にとっては、大きな救いだ。

カリフォルニア州
2023年、修理する権利の終着駅はミネソタ州ではありませんでした。米国第3の州であり、シリコンバレーの本拠地であるカリフォルニア州が、独自の「修理する権利法」に署名しました。カリフォルニア州の要件は、ミネソタ州と非常によく似ていて、製品が販売されてから部品、工具、マニュアルを提供するまでの60日間のタイムラインは設定されていません。しかし、新たに導入された修理エコシステムは、製品の価格によってその対象期間が決まります。卸売価格が50ドルから99ドルの製品については3年間、100ドルを超える製品については7年間にわたり、修理のためのリソースを提供しなければなりません。これは非常に重要です!つまり、この期間にわたる製品の寿命が保証されるからです。携帯電話、ノートパソコン、ポータブルスピーカー、イヤホン、電子書籍など、幾つかのデバイスを挙げてみても、少なくとも7年間は修理が可能です。しかしEU環境局が掃除機に推奨する寿命を18年、スマートフォンに推奨する寿命を25年にはまだ遠く及びません。しかし、少なくとも今よりも長く使うことができます。
州によって要件が異なったり、類似しているところがあります。メーカーに期待できることは何でしょう?製造メーカーや修理する権利支持者たちとの会話から、ニューヨーク州、ミネソタ州、カリフォルニア州で製品を販売するメーカーが、すべての要件を一度で満たしてくれることを期待します。
EUの動向と消費者にとって意味すること
米国における2023年の「修理する権利」の歩みを垣間見た後、今度は大西洋を越えて欧州連合(EU)の話をしましょう。EUはすでにエコデザイン規制という製品のリペアビリティ規制を導入していますが、2023年に、共通の充電器の関する法令が署名され、洗濯機、テレビ、食洗機、冷蔵庫などの家電製品がその影響を受けています。この規制では、7年から10年間にわたるスペアパーツを提供すること(その一部は専門テックのみ入手可能)と、修理・診断情報へのアクセスを義務付けるものです。
昨年、ICT(情報通信技術)機器が初めて製品別規制リストに加わりました。欧州で販売されるスマートフォンやタブレット端末は、EUのリペアビリティ要件を満たさなければなりません。少なくとも7年間は、スペアパーツと修理マニュアルが入手でき、モジュール設計であること、5年にわたるソフトウェアのアップデートが可能であることです。ユーザーは、購入時にリペアビリティと耐久性の表示ラベルによって、事前にどの程度修理がしやすいか知ることができます。さらに、端末の性能を低下させるアップデートは認められません。また、EUはスマートフォンやタブレットをモジュールにさせるために、どの部品が独立してアクセス可能で、どの部品がアセンブリであるべきかを定義しました。その結果、故障診断と修理がより効率的になります。壊れた部品は交換が可能で、分解にかかる時間は短縮され、コストも削減されます。デバイスに耐久性を持たせるため、EUでは偶発的な落下に対する耐性やバッテリー性能など、最低限の耐久性基準を定めています。また、リサイクル業者に配慮して、製品に使用されるプラスチックには適切なマークが必要、分解情報は15年間公開する義務があります。
スマートフォンやタブレット端末のエコデザイン規制とは別に、2023年にはさらに広範囲に及ぶリペアビリティ規制の可能性が出てきました。2023年8月17日、よく知られる「バッテリー規制」が施行されました。この目的は、EU圏内で販売されるバッテリーのライフサイクル全体を規制することです。充電式か非充電式か、産業用か一般ユーザー用か、電気自動車用か、スクーターやe-bikeのような軽輸送手段用か、部品のスタート、もしくは点灯、点火用か、形状、体積、重量、デザイン、材料、化学的性質、用途、目的等に関わらず、全バッテリーが対象となります。ただし、すべての種類のバッテリーが同じパラメータで規制されるわけではありません。

電子機器用のポータブルバッテリーの場合、取り外しと交換が可能であることが求められます。つまり、市販の工具を使ってバッテリーを取り外せることが条件です。製品に付属している場合を除き、特殊な工具やメーカー独自の工具は使用せず、接着剤を柔らかくするための熱や溶剤も使用しないことが義務づけられます。(修理業者の皆さん、嬉しいニュースです!)交換用のバッテリーは少なくとも5年間は入手可能とし、その販売価格も適正であること、そして重要なことは、互換性あるバッテリーをソフトウェア制限によってブロックできないということです。
このバッテリー規制は希望に満ちたもので、使い捨ての電子機器は過去のものとなるでしょう。想像してみてください、修理可能なイヤーバズ、Apple Pencil、電子タバコなど……。さらに安心できる事は、リサイクル工場での火災がどれほど回避できるか。リチウムバッテリーはシュレッダー処分にとって最大の敵であり、メロディー付きクリスマスカードのバッテリーを外さなければ、紙のリサイクル工場全体が火事になりかねないほどです。機器のバッテリーを取り外せることは、修理のためだけでなく、リサイクルのためにも非常に重要です。しかし、大部分のデバイスに取り外し可能なバッテリーが搭載されるのは、2027年2月18日まで待たなければなりません。
使い捨ての電子製品は過去のものになるでしょう。修理可能なイヤーバズ、Apple Pencil、電子タバコなど、使い捨て電子機器の終わりが近づいています。
先に待ち受けているもの
2024年、「修理する権利」の列車はさらに加速します。米国では、アラスカ州、インディアナ州、マサチューセッツ州、ミズーリ州、ニューハンプシャー州、オハイオ州、ペンシルベニア州、ワシントン州など、19の州が修理する権利に関する35以上の法案を提出しています。Googleはオレゴン州で法案を支持する証言を行い、修理する権利全般を支持する理由を記した白書を発表しました。
EUでは今年、ノートパソコンのリペアビリティに関する規制と、修理の権利に関する新EU法が期待されています。次のEU内でのノートPC規制は議論中で、2023年12月7日に関係者(主にメーカーとNGO)との協議が行われました。とはいえ、スマートフォンやタブレット端末と同様の要件が予想されます。故障診断と修理のためのスペアパーツと修理マニュアルが入手可能であること、デバイスがモジュール化されていること、耐用期間中のソフトウェアのアップデートを含めて修理可能であることが期待されます。
EUの新「修理する権利」法は、保証期間外での製品の修理を要求しています。条文が変更されなければ、製品メーカーは、製品が修理不可能なほど損傷していない限り、ユーザーが要求すれば保証期間外であっても修理する義務が生じます。ただし、適用対象は、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、食洗機、テレビ、サーバー、データ記憶装置、そしてこれから登場するスマートフォン、タブレット端末、ノートパソコンなど、エコデザイン規制の製品に限られます。
新しい法案は、修理サービスについてコミュニケーションができる標準フォーマットも含まれるようです。修理業者は見積もり額を提示する際、どのような不具合を確認したか、どうやって修理するか、修理にかかる見積もり期間、修理費用、修理中に代替機器を提供できるかを消費者に伝えなければなりません。この措置によって、特に独立系修理業者と正規修理業者(正規サービスプロバイダー)との間で、修理サービスの透明性と価格競争を高めることができます。

向かう先はサステイナブル
修理する権利が曲がり角に差し掛かかるとき、修理の選択肢がどのように増えるか楽しみです。修理サービスの増加、雇用と産業の成長、より持続可能な設計、電子廃棄物の埋立処分が削減することを期待しています。とりわけ、修理する権利法が施行される州や国々で顕著に現れるでしょう。私たちは自分のものをより長く使うことができます。デバイスのリペアビリティは、製品を差別化する重要な指標です。製品の設計はどのように変わっていくのでしょうか?メーカーは自らに負担をかけずに、故障診断や修理が容易な設計は実現できるのでしょうか?また、メーカーはどのような革新的手段を使って、答えを見出していくのでしょうか?これらの課題が解決される日が来るのを楽しみにしています。では、また!
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