立ちはだかるチップ: 基板修理スクール、パート2
テックニュース

立ちはだかるチップ: 基板修理スクール、パート2

これは、iFixitのライターがマイクロソルダリングと基板修理のクラスに参加した1週間を紹介する3部構成のシリーズのパート2です。パート1を読むことは必要ではありませんが、基板がどのように機能するのか、そしてこのクラスに参加した人々について理解することができます。

クラス3日目の中盤戦に差し掛かると、基板の修理スクールから逃げ出そうと心底思いました。

期待にあふれた数週間を終えた後、1日に往復3時間も運転し、ひどい鼻風邪を乗り切りながらも、私はレッスンに必死でした。熱い鉛を振り回し、壊れたスマホを復活させ、絶望的な状況にある人たちから頼られる人のようになりたかったのです。顕微鏡から目を上げて、デバイスを下から持ち上げながら、「思った通りだ。このコンデンサーはバッテリーラインからショートしていたけれど、これで修理完了です。新品同様に動くはずです」 と言ってみたかったのです。

それどころか、私はこれまでピンセットでスマホのディスプレイポートを溶かし、チップの交換作業に失敗し、クラス全員の前で不器用なマルチメーターのテクニックを披露してきました。Jessaの質問に「ショート」と答えるつもりが「オープン」と言い続けたり、コンデンサーとフィルター、PP_BATT_VCとPP_VCC_MAINがごちゃまぜになっていました。このような仕組みを学ぶことは、脳ミソを引き延ばすようなスリルがありましたが、実際にやってみると、間抜けで不器用な人間のように思えてきます。

iPad Rehabの実践的基板修理コースのリードインストラクターであるJessa Jones氏は、私の何が問題なのか、少なくとも私のアプローチに問題があることを理解していました。彼女の専門的な意見によると、私は休息が必要でした。

「頭が狂ってしまいそうなぐらい小さいチップ。こんなものをいじるなんて気がおかしくなるわよ。楽しいことは他で見つけなさい。」とJessaは言いました。

十分な練習と学習を積めば、この分野で実力を発揮できない人はいないとJones氏は説明しました。そして基板レベルの修理の楽しさを忘れないことが、この仕事の成否を分ける重要なポイントだと言います。「壁にぶつかったら一歩下がって、また新しい問題に取り組めばよいのです。大切なのは診断と練習です。」

1週間にもわたる基板修理で一番学んだことは、他の仕事も同様に、誰でもできるようになるし、やろうと思えばもっと多くのスマホを修理できるということです。

スマホメーカーは、回路基板の問題は取り返しのつかないダメージで、新たにスマホを購入しなければならないと思い込ませたいのです。Jessaは半田付けや回路基板の経験がほとんど無い人を含めた9人に付きましたが、1週間もしないうちに彼らはショートした部品を見つけて取り出して欠陥のあるチップを交換し、小さなジャンパーを配線しました。この9人の中に、”初心者特有のドリフト”を乗り越えて、基本的な回路図を頭に叩き込んだ私も含まれます。

1週間で「ダイオードとは何か」から「チップのリボール技術」について意見交換ができるようになる方法を紹介します。

ホットエアーと新しいチップ

Workstation at iPad Rehab
iPad Rehabでの最終日の私の作業ステーション。友達のMacBook Airを分解中です。

Jessaのクラスでは各受講者たちに作業ステーション、そしてJessaが選んだ診断ツールとマイクロソルダリングツールが与えられます。主なものはライトとカメラ付きの顕微鏡、DC電源と電圧計Hakko社のハンダ付けステーション、ホットエアステーション、作業マットなどです。小さなピンセットやナイフ、フラックスやハンダなどの消耗品も揃っています。受講者たちが共有するのは、iPad Rehabが誇るApple製品の大型作業に対応するツールです。特定の基板を固定するための治具、ソケットやポートを通してテスト接続を行う小さなデジタル機器、最も一般的なチップに小さなハンダボールを再接着するためのステンシルなどもあります。 

基板上の各パーツの役割が分かったら、基板自体を詳しく見ていきます。顕微鏡を覗きながら、どの部品がグランドに接続されているのか、他の部品に繋がっているのかトレースします。BGA (ボールグリッドアレイ)とQFN (クワッドフラット・ノーリード)チップの違いについても学びます。そして基板修理における2つの大敵、つまり解体が困難な恐怖のゴムでコーティングされたアンダーフィルドチップとCPUに最も近く、熱が最も危険なビットについて学びます。

iPhone 6の基板から取り外したMesonタッチチップの底面、再ボール化が必要で、取り外した基板の横にチップを置きました。

初日が終わる前に、最初のタスクが出されました。下の接続部分が外れて “タッチ病 “を起こしやすい「Meson」というチップを取り外して交換します。ヒートステーションを380℃、ハンダ棒を285℃に設定し、BGAチップ除去専用のピンセットを握ります。ピンセットでチップの下を引っ掛け、摘みながら基板全体を持ち上げるという作業です。ヒートガンを当てると下のハンダが溶け、やがてピンセットにチップを残したまま基板が剥がれます。顕微鏡から見えるものと自分の手を連動させるのに時間がかかりますが、この取り外し作業は容易です。

Backside of a chip removed from an iPhone board.
Mesonチップの拡大写真、「外される」のを待つはんだボールが残っています。

次に、チップと基板上のシートをコテで拭きながら、既存のハンダボールを「外す」必要があります。何度も何度もチップとパッドを撫でますが、平らで光沢のあるパッドではなく、Hersheyのキスチョコのような形をした灰色のトゲが見えてくる。もう一人の講師であるMarkは「答えは簡単だ。フラックスが足りない」と言います。より強く押し、より長くコテを当て、より多くのフラックスを加えて、私は何度も何度も試しました。

本当の問題点は?実は、ほとんどのパッドは問題ありませんが、俯瞰で見ると分かりません。時々パーツを持ち上げて、様々な角度から点検しなければ、この針の穴のようなスケールでは見つけられないこともあります。そうこうしているうちに、半田付けステーションが樹液の焦げたような臭いで包まれてきました。

このチップがまだ動くと仮定して、今度は「リボール」です。この作業とは、チップをステンシルに貼り付け、乾燥したソルダーペーストを微小格子に押し込み、そのペーストを熱風で加熱して、64個の綺麗な光沢のあるボールをチップに固定します。チップステンシルの貼り方、ペーストの乾かし方、押し込み方、熱でステンシルが曲がらないようにする方法など、多くの技術が要ります。JessaとMarkは、それぞれ自分たちの好きなやり方があります。もちろん学んだ全ての方法を忘れないようにしなければなりませんが。

熱風に火をつけ、ステンシルに近づけるようにホットエアーを振りますが、結果は……散々です。あるボールは四角いボールの上に流れてしまい、あるボールは小さすぎる、あるボールはピカピカと丸い代わりに鉛のように平べったい感じになってしまいました。Markがもう一度確認してみました。おそらく、メタルステンシルの予熱が不十分で、チップから剥がれてしまったのでしょう。ソルダーペーストも使いすぎました。人並み以上に辛抱強く親切なMarkでさえ、私が指を火傷しなかったことを褒めなかったことに胸をなで下ろしています。

iPad Rehabの別クラスで撮影された、チップのリベリング方法。(英語のみ)

再挑戦する前にレッスンは終了しました。クラスの中には、初挑戦で基本を押さえた人もいますが、私が学んだことはどうやってデバイスを固定するか、そして忍耐と期待について学びました。家に帰り、妻に今日のことを話し、眠りにつき、シャワーを浴びて、2日目の朝に再び車を走らせました。

ここに来て、他の人の基板を見てみなさい。

2日目のレッスンの大半は、回路と回路図です。最後の方に半田付けに移ります。iPhone6基板のディスプレイポート横にある入力フィルタ(チョークコイル)を外して交換します。このチョークコイルは、ディスプレイを接続する横のピンの1つに直接接続され、そこに向かう電圧を平滑化します。これが故障すると「オープン」となり、何枚スクリーンを交換しても、そのピンからディスプレイに電力が全く届かなくなります。

私の仕事は、チョークコイルをフラックスで潰し、半田付け用ピンセットでチョークの四隅にあるパッドを熱で温め、全体を持ち上げることです。前日のチップ交換に比べれば、そこまで細かい作業ではありません。携帯電話のバッテリーを温めて取り出すのと同じような作業であればよいのですが。

しかしチョークコイルの操作中、ピンセットがどこにあるのか、よく感覚が掴めません。あまり神経質にコイルを温めて取り外すのに時間をかけなければ、さほど問題にはならなかったはずです。しかしピンセットを基板に近づけすぎたため、ディスプレイポート自体のかなりの部分が切断された上、いくつかのピンが結合し、あるピンは完全に消滅してしまいました。

Annotated image detailing board damage during a choke replacement
フィルター交換に初めて挑戦した後、iFixitの同僚に送った洞察に満ちた事後検証写真。

さらに時間の余裕があったので、別ポート付近にある入力チョークをもう一度引っ張ってみることにしました。今回もポートに近づきすぎたものの、コネクタを破損せずに、銀色になるまで熱しただけでした。Jessaに自分の成果を見せると、彼女がくれたアドバイスは「勝って次に進むこと」でした。次は、ポートにカプトンテープを貼ります。

Annotated image detailing a replaced choke on an iPhone board
またやってみたいと思わせる(ほんの)ちょっとした成功。

不確実な時のワイヤ

2日目の夜は、ロチェスターの友人宅に泊まりました。風邪は悪化し、暖房はいつもよりずっと暑く感じます。そして、近くの薬局が開くまであと12分あります。車の中でくしゃみと震えを感じながら、この体験を上司や自分自身に、これを読んでいる人たちに過剰に伝えていないか考え始めました。私は自分の理解を超えた概念に翻弄され、手に取ったiPhoneの基板がすべて焼け落ちてしまいそうです。このクラス終了後、携帯電話を専門に修理していく予定もありません。この体験の落とし所は一体何なのか?

その朝、私たちは携帯電話が蘇る奇跡を目の当たりました。熱と回路図を使って何ができるかを学んだ私にとって、まさに強烈なインパクトを受けた「ダマスカスへの道」のような瞬間でした。しかし、その日の午後の実習は、チップのパッドと近くの部品の間に、髪の毛ほどの太さの銅線をジャンパーとして繋ぐ練習ですが、あまり乗り気ではありません。何本のワイヤを吹き飛ばしたり、くっつけたりなんて、私にできるのでしょうか?

これは、練習のために基板のビットを抜くのとは少し違い、基板修理技術者が実際に行っていることです。ロジックボードの一番曲がりやすい部分にあるチップの中には、小さなハンダボールの一部が割れてしまったり、下に抜けてしまうことで接続が切れ、iPhone 7の「オーディオIC」問題のようにスピーカーが動かないという事態を引き起こすことがあります。このようにジャンパー線を配線することで、飛び出したチップを交換した後、さらに変形しても問題が再発しないようにすることができます。

私はiPhone 6の基板を手に取り、初日にチップの交換に失敗して空いた場所を使います。極細ピンセットを手に取り、小さなワイヤの長さをつまんで、その絶縁体を焼き切ります。フラックスをパッドの近くに置き、コテ先に少量のハンダを付け(真鍮ウールで大半を拭き取り)、ワイヤをチップのパッド側に寄せます。もう片側のパーツに向かってワイヤーを曲げている途中で、私は気づきました。上手くできている。

A microscopic wire jumper run from a chip pad to a component
細いワイヤでチップのパッドとその付近の部品の間にはんだ付けをする練習(筆者はチップを再接着する前にパッドをきれいにすると誓っています)

自分がいかに下手かということばかりに気を取られていて、顕微鏡の下で自分の手や目の奥行き感が改善してきていることに気づいていませんでした。またコテを当てるときの「初心者ドリフト」がかなり解消されていることにも気がつきませんでした。近くのパッドから自分のパッドにハンダが飛び出しても、冷静にコテ先を少しひねって、修正できるようになったのです。

Markが寄ってきて、私のワイヤをチェックし、よく出来ていると言ってくれました。「これができるなら、何でもできるようになるよ」と。さらなる習得のために、別のジャンパー練習を行いました。基板のハンダ、リードのハンダ、コンデンサ、ワイヤ、パッドなど、すべてがどのような感触で、どのように圧力に反応するのか、私は精神的な感覚を身につけ始めました。もう顕微鏡で手の位置を確認するのに2分も3分もかかりません。

変な話ですが、こういう楽しみ方はずっと持ち続けなければならないのです。

壊したPixel 2の修理

4日目は、受講生たちが持ってきた大方壊れて動かないiPhoneを修理しました。Jessaは私が持ち込んだPixel 2を点検しましょうと言いました。それは親友が所有していた携帯電話で、バッテリーの交換後、スクリーンが動かなくなりました。再び新しいスクリーンに交換したものの、薄暗くて色彩のずれた画像が表示されます。最終的に私が修理店に持ち込んだところ、またもや純正のスクリーンでも同じ目に遭いました。私を含めて誰にも理解できない障害で、もうこのPixelを諦めていました。

Pixel 2の回路図が手に入るわけでもなく、ボードレベルの部品が市場に出回っていません。しかしMarkとJessaが顕微鏡で10秒間見ただけで、二人ともこの問題を突き止めました。その後、受講生全員に見てもらい、問題点を見つけられるかテストされました。さあ、あなたは何が壊れているかわかりますか?

Close-up view of the corner of a Pixel 2's display port
ディスプレイ非搭載のPixel 2のディスプレイポートとその付近のビット

ポート付近の部品はどれも若干違って見えますし、あるポートピンは周辺が腐食しているようです。何も付いていないハンダボール(「ノスタッフ:no-stuffs」と呼ばれる、一部の機種で意図的に部品のない基板部分です)も確認できます。コンデンサの1つは少し金色に錆びているように見えます。しかし本当に問題があるのは、そこにはありません。2つのフィルター(上の画像の一番右上)は、パッドが空っぽです。暗い色の基板のため、多くの受講生たちの目を欺いています。

この授業では、基板を検査するときに見るべきものとして「先代技術者が残したダメージ」について何度も話をしました。このケースで言えば、私は先任技術者です。私がダメージを与えた張本人です。ディスプレイコネクタを外すときに力を入れすぎて、フィルターをこじ開けてしまいました。MarkはPixel 2の部品を見て、一つはそのままに残してもよいコンデンサ、しかしフィルターはディスプレイとボード間のワイヤが開いたままになっていると推測します。この日は時間切れだったので、Markが自分でワイヤを繋いで見せました。

Running a jumper wire between the pads of a disconnected filter on a Pixel 2 display port
1枚欠けたフィルターのパッド間にワイヤーをハンダ付け。そのサイズ感を出すために細長い米粒を置いています。

Markから携帯電話を渡された私は、充電テーブルまで持って行きました。交換した有機ELスクリーンを手に取り、指ではめ込み、充電ケーブルを差し込むと…原色の輝きを放つGoogleのロゴが現れました。1分もしないうちにロックスクリーンが表示され、タッチに反応するようになりました。Markは約1分間の検査と5分間の作業で、誰も解明できなかった携帯電話を救うことができたのです。

A Pixel 2 on a workbench, assembled and turned on
手術後のPixel 2

ポイントはここです。このために、私は講座に参加しました。


来週は、基板修理スクールでの経験を総括して、基板修理の経済、政治、ビジネスについてお話しします。というわけで、今回はこの辺で。

翻訳: Midori Doi