Appleセルフサービス修理プログラムが始動しました。
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Appleセルフサービス修理プログラムが始動しました。

-しかし隠された罠に気をつけましょう-

Appleは、2021年11月に発表したDIY修理用パーツプログラム、セルフサービス修理プログラムをついに始動させます。そして4月27日より、米国内のAppleではiPhone 12、13、SE 3の純正パーツとツールを購入することができます。対象パーツはバッテリー、下部スピーカー、カメラ、ディスプレイ、SIMトレイ、Taptic Engineです。来年にかけて、このセルフ修理プログラムはM1 MacBookへと拡充され、また欧州もサービス対象地域に加わるようです。また将来的には、その他のパーツ製品販売も含めながら対象地域も広げられる予定です。今のところ、AppleがiFixitのようにiPhone旧モデルをサポートするかは不明です。

昨年11月の時点では、iFixitはこの新プログラムについて慎重ながらも楽観的に捉えていました。より多くの人に修理できる機会が与えられることは、素晴らしいニュースだからです!本日、Appleが発表した詳細の中で、希望に満ちたサービスも多くあります。とりわけ新モデルのパーツ提供については7年間保証されること、これまでAppleの正規技術者しか手に入れられなかったツールが一般販売されること、そして公式Appleサイト上で手順ごとにまとめられた無料の修理マニュアルが公開されます。しかし、この新しい領域への扉が開くと同時に、私たちはこの変化に圧倒され、いつもの懐疑心が沸き起こってきます

まず、最大の問題点は?Appleはパーツのペアリング戦略をさらに強化し、ごく限られたシリアル番号で認証された修理のみに限定しています。つまりシリアル番号やIMEIがなければ、主要なパーツは購入できません。アフターマーケットから入手したパーツに交換した場合、「認証できませんでした」という警告表示が待っています。この戦略は、サードパーティーによる修理は機能を失わせる行為として妨害し、リサイクル業者やテック整備士たちの選択肢を劇的に制限させることに繋がり、循環経済を短絡させる可能性があります。

アメリカ国内では、AppleからiPhone 12の純正スクリーンを購入し、手間なく自分でインストールすることができるようになります。今までのDIY修理では、Face IDスピーカーとセンサーアセンブリを新しい交換用スクリーンに移植して、インストール終了後はスクリーンに表示される警告を無視するという一連の作業でした。もしアセンブリが破損していたり、欠陥があった場合は修理はここで行き止まり、運が悪かったと片付けるしかありませんでした。しかし新しいプログラムのおかげで、Appleの純正パーツを購入できれば、この問題を解決することができます。

一方で、パーツ購入時にiPhoneに付いてくるシリアル番号またはIMEIを入力しなければなりません。パーツをインストールした後、インストラクションに従ってワイヤレスの設定ソフトウェアを介してパーツとiPhoneをペアリングする必要があります。パーツのペアリングが必要になるということは、パーツ販売が終了した時、iPhoneに有効期限が設けられるということです。修理業者がまだ機能するiPhoneに非純正パーツを入れた場合、完全に修復することはできません。他のiPhoneから取り出した純正ディスプレイと交換しても同様です。iFixitが連携して取り扱っているGoogle、HTC Vive、Motorola、Samsung、Valveの公式純正パーツは、購入時にシリアル番号を必要とせず、パーツとデバイスをペアリングするためのソフトウェアも不要です。これは私たちにとって重要なポイントです。

Appleが修理マニュアルをオンラインで誰でも無料で利用できるようにしたことは、本当に素晴らしいことです。こんなに嬉しいことはありません。20年来の願いが叶ったようです。Appleは、修理用ツールも初めて一般販売を始めました。Apple純正のバッテリープレスやディスプレイ用の接着剤リムーバーなどが購入できるだけでなく、これらのツールをレンタルすることができます。49ドル(約6000円*)で、iPhone修理に必要な公式ツール一式を利用できるのです。なんと頑丈なケース2個の中に、合わせて35Kgのツールが入っています!車のオイル交換のためにBoston Dynamicsのロボットをレンタルするような感覚です。通常のDIYを愛する個人技術者たちは、これだけのツール一式を揃える費用や手間はかけないだろうという予想に反しながらも、Appleが公開した修理マニュアルは専門的で頑丈なツールを使用することを想定して作成されています。今の所、iPhoneオーナーや個人技術者たちはiPhoneの修理はもっとシンプルなツールがあれば修理ができると実証しています。

またAppleは、MacBookのバッテリーサポートを10年間提供することに加え、iPhone用パーツについても7年のサポートを約束しました。(カリフォルニア州の規定により7年のサポートは義務付けられています)。バッテリーの交換は必須のメンテナンスと考えるべきで、発売から10年間にわたるバッテリーの提供は、テック業界で遵守する最低ラインであるべきです。

提供価格はApple正規サービスプロバイダプログラムと同様に、iPhoneオーナーや個人技術者たちは”卸売り”に近い価格でパーツを購入できます。(本来の卸売を望んでいる企業にとっては満足できる価格ではありません)。AppleのiPhone 12 純正バッテリーは、本体価格の6%にあたる価格です。スクリーンは本体の約33%にあたる価格です。さらにAppleは不要になった古いスクリーンを回収してくれます。増え続けるE-wasteを考えると、これは良いサービスで、Appleにとっても整備して再利用を広げれる理想的な仕組みです。

Appleで販売されるiPhone 12の純正ディスプレイは269.95ドル(約35,000円)で、古いスクリーンをリサイクル回収に出すと33.60ドル(約4,300円)が戻ってきます。Appleからツールをレンタルすると、49ドル(約6,300円)が加算され、修理にかかる合計は285.35ドル(約37,000円)になります。iFixitではOLEDディスプレイの場合は249.95ドル(約32,000円)、アフターマーケットのLCDは199.95ドル(約26,000円)で、ツールを含む修理キットとして販売しています。iFixitのパーツ価格は発売以降の経過時間と比例して大きく変化します。参考までに、現在のツール付きiPhone 11スクリーン修理キットは124.99ドル(約16,000円)です。

修理を考慮するとAppleの新プログラムは素晴らしい一歩であり、思い切った方向転換です。しかし、このプログラムは世界中で目指す修理する権利の法制化とは一致しません。私たちが目指す修理する権利は、独立系修理店にリペア市場で競争できる機会を与え、結果として修理費全体を引き下げることです。残念ながら、Appleのプログラムは、片方の手で修理の自由を拡大しながら、もう片方の手でドアを施錠しています。シリアル番号の確認を購入時のプロセスに統合することは危険な前兆であり、将来的にはAppleがさらに多くの修理を阻止する力を持つようになる可能性があります。Appleは個々の技術者の修理をより簡単にするテクノロジーを提供しながら、純正もしくは非純正パーツを使った修理を”承認”、あるいは”拒否”できるゲートウェイを構築するでしょう。

私たちは、AppleのDIY修理プログラムを澄み切った心で支持することができればと思います。DIY修理のオプションがないことよりも、このプログラム導入は望ましいはずです。しかし、Appleのマーケティング担当者があなたに信じ込ませようとしているような、ユーザーや修理技術者たちにとって無条件の勝利ではありません。少なくとも、Appleはこのプログラムを導入する前にいくつかの課題を緻密に計算しています。メーカーは”修理する権利”の波がやって来ることを知っています 。私たちは、しかるべきタイミングでAppleがやり残した課題に取り掛かります。

  • * 1ドル=128円(2022年5月上旬時点)

翻訳: Midori Doi