Vision Proの最も奇怪な点は、それ自体が最もAppleらしさに溢れていることです。競合VR製品が採用しているアルミニウムやプラスチックとは一線を画す、大きな光沢を放つバブルガラスがフロントに使用されています。そしてVision Proを装着した状態では、さらにその奇怪さが増し加わります。ガラスの反対側は、完全な透明ではなく、奇妙なレンチキュラースクリーンがユーザーの視線を模倣して、まるで3Dのような目が動く映像を映し出します。AppleはこれをEyeSightディスプレイと呼び、ユーザーが目の前にいるあなたを見た時、スモークのかかったガラス越しのような姿で見えます。
テックジャーナリストたちはEyeSightを「奇妙」、「気味悪い」、「その実用性が非常に疑わしい」と評しています。そして、修理の観点から見ると、これは一番弱いポイントのように思えます。なぜその奇妙な機能のために、新しいスクリーンや沢山のコネクタ、さらに数えきれないほどの失敗要素を作りだす必要があるでしょうか?もちろん、私たちはPro Vision内部を調査し、その動く仕組みについて解き明かさなければなりません。
内部へのアクセスするのは困難と予想していました。(その通りでした) そして、何も破壊しないことを願っていました。(そう上手くはいきませんでした) しかし、EyeSightディスプレイからセンサーアレイ、外部バッテリーパック、R1チップまで、Appleがこのデバイスに詰め込んだ新技術の全てを見る価値があります。私たちはこの分解のために、フレームのX線画像やディスプレイの高解像度顕微鏡写真など、詳細な視覚情報を提供できるように、重装備で固めました。
今日の分解テーブルに載せられたVision Proを入手した理由は、多くの考察を行い、様々な意見に耳を傾け、これまで経験した観点から予想したものです。Vision Proには多くの機能が詰め込まれているため、私たちはレンズシステムとチップに関する詳細情報について、2つのブログに分割して提供します。
さあ未だかつて、誰も探索したことのないガラスの洞窟に潜り込んでみましょう。


もちろん、ガラスパネルは接着されていて、これを壊さずに取り外すには、多くの熱と時間がかかります。パネルが無傷では外れなかったことを認めましょう。ガラスの保護用プラスチックフィルムが、少し剥がれたり、溶けたりしました。Appleの修理担当者は私たちよりもスキルが高いかもしれませんが、壊れたフロントガラスを交換する場合、799ドルの請求書が渡されます。


Heavy Metal
34gのガラスは単体で持つと重くはありませんが、バッテリーを加えた全てを装備すると、Vision Proは1kg以上の重さになります。
ここで注目するのは、Appleがちょっとした手品を披露していることです。使用されている宣伝用の写真には、上手く隠された外部バッテリーがポケットに収められています。VR初期に発売された製品と同様に、バッテリーをヘッドセットに統合すると非常に重くなります。そして数年間で消耗していくバッテリーのことを考えると、私たちはモジュールのバッテリーを大歓迎します。ひょとすると、Appleのハードウェアチームは、欧州で導入された、2027年までにすべての電子機器にユーザー交換可能なバッテリーを搭載する規制を見越しているのかもしれません。

バッテリーパック自体の重さは353gで、iPhoneサイズのバッテリーが3つ組み合わさり、合計35.9 Whの電力を供給します。これはiPhone 15 Proの17.3 Whの約2倍以上です。各バッテリーセルは184gで、意外なことにバッテリーパック全体の約半分ほどの重量です。バッテリーパック内部にアクセスするには、周囲の粘着剤を軟化させ、使い捨てメタルクリップを外し、数多のトルクスネジをひねって外します。

バッテリーパックとヘッドセットの重量を合算すると、1kgを超えます。これは非常に重いメガネです。比較のために、Quest Proの重さは722 gで、Quest 3の重さは515 gです。
しかし、ここで重さの比較とは単に天秤にかけることではありません。大切なのはバランスです。Vision Proの重量の大部分は全てのテクノロジーが搭載されたフェイス側にあり、Pro Dual Loop Bandでも完全にバランスを保つことはできません。Appleは、前面に大きく傾くバランスを解消するため、背面にバッテリーパックを装着する設計を特許出願しました。しかし、この設計で重さが150%増加することを考えると、それを手に入れたいという気持ちにはならないでしょう。
顔にかかる重さだけを考えると、Meta Quest Proのバッテリーを除くディスプレイモジュールは522g です。Vision Proの同アセンブリは532gで、ほぼ同じ重さです。両ユニットの主な違いは重量配分と、Vision Proのはるかに重いポケットバッテリーです。

しかし第一印象はかなり良いようです。「重さは思ったほど酷くないけれど、頭ではなく額や頬にかかるのは確かで、誰かが頭を下に傾けようと押しているような、違和感がする」と、iFixitのベテラン分解エンジニアのSam Goldheartは述べています。
ヘッドバンド
Vision Proには3Dニットソロバンドとデュアルループバンドの両方が付属しています。これらは、スピーカーの真後ろに取り付けられます。アイコニックなソロニットバンドは、多くの宣伝写真で使用されていて、見た目も大変クールです。後頭部の後ろを包み込み、バイクのヘルメットを締めるように側面のダイヤルでフィット感を調整します。
では、どのような手触りでしょうか?「生地は非常に素晴らしいものです」とSamは言います。ソロニットバンドには非常に繊細なクッション状の編み模様があり、ポニーテールでもフェイスユニットをサポートできるほどの十分な伸縮性があります。

スピーカーは、ヘッドセット本体に接続される2つの頑丈なバンドに固定されています。おなじみのSIMカード取り外しツールをこめかみ辺りにある専用の穴に差し込んでスピーカーを外します。取り外し可能なバンドにはLightingコネクタと同じように一連の電気接点が並んでいます。簡単に取り外しできる?ツールボックスにあるツールだけで交換できる?そのような設計は最高です。これなら、ヘッドセットを開けるのは、最初に想像したほど大変ではないかもと期待してしまいます。
このモジュラーデザインは、私たちのお気に入りのAirPods Maxと似ています。ウェアラブルデバイスは簡単に損傷する可能性があるため、交換可能なスピーカーモジュールを持つのは理想的です。さらに作業は進み、スピーカーをシリコンフレームからこじ開けようとしたところ、すぐさま、内側のモールドケーブルを壊してしまいました。問題ありません、通常、ユーザーはスピーカーモジュールをこじ開ける必要はありません。

スピーカー自体は、耳に向かって、つまり後ろを向いています。これは、騒々しい場所での着用を想定していないことを明確に示しています。もし必要なら、AirPods Proを合わせて使うこともできます。ロスレスで低遅延のオーディオを楽しみたいなら、最新のUSB-Cバージョンが必要です。
左側には、Apple独自のバッテリーケーブルの接続ポイントがあり、マグネットで固定し、これを回せばロックできます。Appleが非標準のコネクタを採用した理由は理解できますが、それでも特殊コネクタのファンにはなれません。それでも、すれ違いざまに引っかかって、ケーブルを切断することはないし、椅子に引っかかって転倒することもありません。しかし、ケーブルの反対側のプラグはどうでしょう。USB-Cプラグで終端する代わりに、独自の特大Lightningコネクタでバッテリーパックに接続し、ペーパークリップかSIM取り外しツールを使って外す設計です。

このコネクタの設計上、既に所有しているUSB-Cバッテリーパックに交換することはできません。残念です。

Light Sealとフェイスクッション
私たち一人一人の顔は異なります。Appleは異なる顔のサイズと形に対応するために28種類のLight Sealパーツを販売しています。また、Zeissのレンズインサートが必要な場合、シールのサイズも変更します。シールとクッションは、目の位置を正しく固定するために大切で、ステレオスクリーンとアイセンサー用に使用されるからです。これがAppleがすべてのVision Proの注文を手作業で梱包している理由です。”標準的な”セットアップは存在しません。

これらのシールは、マグネットで本体ヘッドセットに取り付けます。まさにAppleらしいアプローチです。接着剤で固定するか、もしくは取り外しがとても簡単なデザインかのどちらかです。このモジュール設計は、顔に理想的なフィットを実現しようとする荒技と言えます。これが長期的に必要かどうか、未来のデバイスでよりシンプルな方法を見いだせるかどうか、興味深いところです。今のところ、マグネットは正確な位置に装着できるという点で、マジックテープよりも優れています。MagSafeが充電器に接続したり、iPhoneの誘導充電コイルの正しい位置にぴたりと装着することを考えてみてください。
Appleはシールのクリーニング方法について、水と無香料の食器用洗剤を推奨しています。汗や油脂を吸収する部分の汚れを防ぎ、特にメイクをして使用する場合に適しています。ウォールストリートジャーナルのビデオでは、24時間連続でヘッドセットを着用したジョアンナ・スターンのレビューによると、シールの内側に彼女のメイクアップが固まっていたと述べています。iFixitのSam Goldheartもまさに同じ問題を抱えていました。
磁気シールの下には、ここでも汚れが付きにくいニット生地で包まれた永久的なシールがあります。ここからヘッドセット内部にアクセスできます。これを外すと、別のサプライズが待っていました。薄い伸縮性のあるプラスチックシートです。これがニット生地の隙間を埋めるためなのか、または異物粒子が内部へ侵入するのを防ぐためのものか、よく分かりません。しかし、この部分はマスクを被った正真正銘のスーパーヒーローのように見えます。

EyeSight ディスプレイ
Vision Proを特徴づける要素であり、そのレビューが数多く投稿されている今、その中で最も論議を呼んでいる要素の1つが前面向きのゴーグルボックスです。
EyeSightの特許は、「内部フォーカス」、「外部エンゲージメント」、「おやすみモード」の3つのディスプレイモードが含まれます。特許には、画面に表示される可能性のあるイメージ画像が何ページにもわたって掲載されています。アニメに出てくるような動物の目、センサーによってキャプチャされた生体認証データー、好きな人との会話中に表示されるハートマークなど、様々なものが含まれています。内部のカメラは感情の状態を読み取り、それに基づくイメージを投影するようです。

かっこいいアイデアです。しかし、実際には、EyeSightディスプレイは非常に暗く、低解像度で、レビュアーたちはそれを見つけるのが難しいと言っています。ウォールストリート ジャーナルのジョアンナ・スターン氏は「見づらい」と評し、マルケス・ブラウンリー(通称MKBHD)は「ヘッドセットを着用している時、相手は私の目がほとんど見えません」と述べています。
実際、EyeSightがあなたの動く目を作り出すとき、単一のビデオ映像が表示されるのではなく、複数のビデオ映像が映し出されています。ガラスシェル内部を探索すると、前面のディスプレイには3つの層があることがわかります。拡大層、レンチキュラー層、およびOLEDディスプレイです。

どうしてEyeSightはそんなに奇妙なのか?

Appleは具体的な目標の達成を目指していました。つまり、アニメーションされた、3Dの目を持つ顔の生成です。これを達成するために、非常に戦略的な設計を選択し、同時に妥協も必要でした。
人間の脳は顔とその表情にとりわけ敏感です。それゆえにアンカニー・バレー(不気味の谷)が存在する理由の一部であり、深度感知の一部です。Appleは正真正銘の3D効果を作り出す必要がありました。3Dレンダリングが実際には、3Dに見えない理由の1つは、立体視効果を欠いているためです。ある物が3Dに見えるためには、各眼で微妙に異なる画像を見る必要があります。Vision Proは、これをレンチキュラーレンズで実現しようとしています。
レンチキュラーレンズは、違う角度から見ると異なる画像を映し出します。このエフェクトを使えば、2フレームのアクションで動きを再現できます。また、同じ被写体を異なる角度から撮影した画像で、立体視の3D効果を作り出すこともできます。
Vision Proは、外側にOLEDパネル、そしてレンチキュラー層が重なっています。VisionOSは複数の顔画像(AとBと呼ぶ)をレンダリングし、それらをスライスして、ある角度から見たAを左目に、別の角度から見たBを右目に表示します。これにより、立体的な効果を利用した3Dの顔が生成されます。そして、これらの角度は非常に小さく、無数にあり、私たちの意図をうまく伝えるには、高度なEvident Scientificの顕微鏡が必要です。


このアプローチには妥協もあります。水平解像度は大幅に低下し、複数の画像も左右の二つに分割されます。たとえば、2000ピクセル幅のディスプレイに2つの画像が表示されると、各画像は水平方向に1000ピクセルしか使えません。ユーザーはディスプレイの解像度や組み込まれる画像数を把握しておらず、解像度は必然的に低下します。これがEyeSightの目がぼやけて見える主な理由の一つです。
レンチキュラー層の前面には、レンチキュラーの構造に似たカマボコのような凸状があるプラスチックレンズ層があります。この層は、ユーザーの投影されたフェイスを、Vision Proの幅に合わせて大きく引き伸ばしています。このレンズ層を外した状態で、Vision Proを起動してみると、非常に奇妙な、中央に寄った両目が表示されます。
さらに、このレンズは効果的に視野角を制限しています。プライバシーフィルターのように、Vision Proの真正面のみに限定し、極端な角度を見るときのアーチファクトを制限します。すでに複雑でぼやけた画像が、さらに別のレンズ層を通して見渡すことで、さらにぼやけて暗くなるという欠点があります。
レンズインサートとステレオディスプレイ
このX線画像は、私たちの光り輝く友達のCreative Electronから提供されました。彼らはこの画像を見たいがために3500ドルを費やしました。

Vision Pro自体は、初めて装着したときにレンズの位置を調整するモーターで、瞳孔間距離調整を自動で行います。それ以外の場合は、処方箋レンズ(ZEISS 光学インサート)が必要です。
Appleストアで試用する時、眼鏡のための視力を測定する機械があります。眼のトラッキングに干渉する可能性のある斜視などの眼の状態を持つユーザー向けに、Vision Proはアクセシビリティ機能の代替インターアクションコントロールを提供しています。しかし、乱視を持つ人はレンズが利用できないと聞きました。乱視は人口の40%を占めています。それに関する詳細情報をお持ちの場合は、コメントに残してください。
処方箋のレンズ、ZEISS 光学インサート自体は、ヘッドセットと「ペアリング」する必要があります。この決定は既に使い勝手の悪いユーザーインターフェイスを生み出しており、John Gruber氏は間違ったキャリブレーションコードを受け取り、アイ・トラッキングの性能が低下しましたとレビューを残しています。基本的に、私たちはとしてパーツのペアリングが嫌いです。サードパーティのレンズを使用しながらキャリブレーションを可能にする方法があるはずです。
そうでした、Creative Electronは1枚の美しいX線写真を撮った後、物足りなさを感じ、最後にVision Proが360度回転する映像を提供してくれました。素晴らしいですね!
R1と M2 チップ
このヘッドセットはM2 Macチップと新しいR1チップの組み合わせで動作しています。R1チップは12台のカメラ、LiDARセンサー、TrueDepthカメラからの映像入力を処理し、時差を最小限に抑えています。ARでは、リアルワールドのカメラビューをユーザーの目にできるだけ速く投影する必要があります。ユーザーの知覚する動きと視覚が合致しなければ、それはVR酔いの要因になるからです。
R1はリアルタイムオペレーティングシステムを使用しています。つまり、タスクは常に一定の時間で実行されます。一方で、ほとんどのコンピュータはタイムシェアリングオペレーティングシステムで動作します。そのため、タスクを即座にスケジュールするため、動作の遅れが発生することがあります。わずかに固まってしまうマウスのカーソルや、画面上をぐるぐる回転するレインボーカーソルを想像してみてください。Vision Proにとって、非常に重要なパススルービデオとオブジェクトのレンダリングでは、このような遅れは絶対に許容できません。もし動作の遅れが発生すると、映画Matrixのような静止状態を覚えたり、違和感を感じるでしょう。しかし最悪の場合は、吐き気を感じたり、つまづいたり転倒を起こす可能性があります。

奇妙なデザイン設計でありながらも驚嘆に満ちた製品
初代のiPhoneも似たようなことが見られました。性能の低いチップが高速スクロールに追いつけない時、グレートと白のチェッカーボードに切り替えて、フリックやスワイプに対応しました。この時、Appleはグラフィックよりもレスポンスを優先しました。Vision Proでは、グラフィックとレスポンスどちらも優先しています。結果として、バッテリーの寿命や重量、発熱といった影響は免れません。しかしAppleのAR体験の重要さを考えると、これは初代デバイスとしては正しい選択かもしれません。
確かに、Vision Proは驚異的で野心に満ちたテクノロジーです。重くて、壊れやすいガラススクリーン、接続タイプのバッテリーは面倒で、欠点も確かにあります。しかしAppleは、Macの持つパワーと新しいAR専用チップのパフォーマンスを、顔に装着するコンピューターに詰め込むことに成功しました。
リペアビリティの観点から見ると、簡単に作業できるデバイスではありませんが、ある接続はとても楽で良い設計です。例えば、サイドアームがSIM取り外しツールを差し込めば、簡単に外れると分かった時、私たちの分解チームが飛び上がって喜びました。マグネット付きのクッションなど、ユーザーフレンドリーなデザインもあります。
では、なぜこのVision Proの開発に何年間もかかり、Appleの未来のコンピューティングへの賭けであるにもかかわらず、EyeSightスクリーンにAppleの基準を満たすことができなかったのでしょうか?
それは薄暗く、解像度が低い上に、ヘッドセットの中で最も重要な部分に、重量と複雑さ、費用が大きく加わっています。ついにデットラインに達し、目標性能を達成できなかったのでしょうか?それとも最終段階で製造ミスがあったのでしょうか?いずれにせよ、市場に投入するには難しい決断だったと確信しています。
iFixitがVRヘッドセットの分解を始めたのは、初代Oculusからで、分解をする度に驚きと喜びに満ちています。ここには非常に興味深い機械設計と光学設計が詰め込まれています。そしてAppleの素晴らしい位置情報を追跡するセンサーをシームレスに統合したことは驚異的で、どのようにして実現できたのか、とても興味があります。
まだ分解の分析は終わっていません。次回は、デバイス内部のディスプレイ、センサーアレイについて詳しく調査し、リペアビリティのスコアを評価します。
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