プロダクト デザイン

メーカーがデバイスの修理を阻止する方法

不死身のドラキュラとは違い、私たちの携帯電話やノートパソコンはやがて壊れてしまう運命にあります。スクリーンが破損したり、バッテリーが消耗して充電ができなくなったり、いつか何処かが壊れるでしょう。メーカーは、ユーザーがデバイスを修理して完璧に近い状態で使い続けるより、新しいデバイスを購入してもらいたいと考えていることが、顕著にデザインに表れています。

単なるコスト削減のためと思われるものもあれば、デバイスを修理できないようにする目的でロックする、ひどいものもあります。ここでは一般的な例をいくつか紹介しましょう。

ガジェットに貼られた「剥がせば無効」ステッカー。 

The manufacturers placed an illegal warranty void if removed sticker on this device
このステッカー自体が違法なので、怖がる必要はありません。

デバイスのバックパネルを開けると、あるいは開ける前でも、”ステッカーを剥がすと保証が無効になります”というシールを見つけることがあります。iFixit エンジニア Jeff Suovanenによると、1975年に制定されたマグナソン・モス保証法に基けば、このステッカーは違法です。自分でバッテリーを交換したからといって、メーカーがスクリーンの保証修理を拒否することはできません。メーカーが積極的に修理する意欲を削ぐ例は多くありますが、保証無効のステッカーは特に顕著なサインです。この法律は長い間にわたって見過ごされてきましたが、連邦取引委員会(FTC)はこの誤解にも繋がりかねない行為を取り締まり始めました。しかし依然として、多くのメーカーがこの法律を利用しています

特殊ネジやメーカー独自のネジを使用する。

Proprietary screws being used to halt right to repair and further planned obsolescence
多くの家庭では、ガレージにトライウィングドライバーが転がっているわけではありません。

ドライバーはどこの家にでもあるし、テックに詳しい人ならトルクスビットも工具箱に入っているかもしれません。しかしメーカーは、ユーザーの手がデバイス内部に入ることを妨害する、さらに入手困難なネジを使用しはじめています。

「一番簡単な例はAppleでしょう、私たちが見たことも聞いたこともない無名のネジデザインを採用したからです。それまでのiPhoneは普通のプラスネジが使用されていましたが、前触れもなくiPhone 4から特殊なペンタローブネジに変更されました。しかも外側のネジだけで、内側のネジは一切変更されていません。当時、誰もペンタローブドライバーを持っていなかったため、これは明らかにiPhoneの改ざん/改造から守る意図があったということです。」とJeffは説明します。

もちろんAppleだけでなく、任天堂も80年代にファミコンカートリッジやスーパーファミコンに特別なセキュリティービットを使用したことがあります。このようなロックアウトの手法は増える一方です。最近では、任天堂が自社のハードウェアに特殊なトライポイントネジ、AmazonがFire TVにトライウイングネジ、ソニーがPlayStation 4にトルクスセキュリティネジを使用しています。

「多くの人がトルクスドライバーを持っていますが、特殊なトルクスセキュリティネジの使用は私たちを苛立たせるものの一つです。しかし、メーカーはそのような小さなステップを踏みながら、トルクスセキュリティビットを使用しますが、デバイスにとって工学的には何の意味も持ちません。ただユーザーを締め出そうとする試みです。」とJeffは続けます。ここまでとは行かないでも、ゴムパッドやパネルの下にネジを隠すメーカーもあります。

ネジの代わりに接着剤を使用する。

Manufacturers use glue instead of screws to increase planned obsolescence
マイクロソフトのSurface Pro 3はネジの代わりに接着剤で固定されているデバイスの一つです。

継ぎ目がスムースで、なめらかな曲線のデバイスが支持されるようになると、多くのメーカーはネジの代わりに接着剤を使用するようになりました。「防水性能の向上のために接着剤を使う正当な理由もあります。」とSuovanenは言います。「しかし、ネジやガスケットを使うなど、もっと良い方法があるはずです。修理をしたい時に、接着剤の除去は非常に面倒な作業となるからです。デバイス自体を壊さずに分解するのは難しいですし、時間もかかります。」接着剤を使ってパーツの継ぎ目を隠すと、デバイス内部を開けることが不可能に見え、内部を修理するという意欲を削いでしまいます。

主要部品をハンダ付けし、アップグレードや修理を不可能にする。

Manufacturers solder the logic board to take away your right to repair it
Dell XPS 13は、RAMが基板に直接ハンダ付けされている数多くのノートPCのうちの1つです。

以前はノートパソコン内部を開いて、新しいRAMや大容量のハードディスクに入れ替えれば、あと2、3年は使えると言われていました。しかし今はそうはいかない状況です。「最近では、多くのモバイルCPUが基板にハンダ付けされていることが多く、私たちに残された選択はありません。こうした設計がメーカーにとって唯一の選択肢であることもあります。しかしながら、RAMやストレージが不必要に基板にハンダ付けされると、本来であれば簡単にアップグレードできていた可能性が排除されます。「モジュール式RAMと取り外し可能なSSDを搭載した、薄型で軽量のラップトップを実現できない理由はありません。現に、LG GramHP EliteBookライン(特に修理がしやすい)のようなデバイスで見たことがあるからです。」”デバイス内部にユーザーが修理可能な部品はありません”と表示されたラベルを見ると、メーカーが主要なパーツの全てをハンダ付けしたことが推測できます。デバイスのスピードが遅くなった時、あと数年余分に使い回せる可能性はありません。

デバイスの分解は最終的な破壊に繋がる。

Manufacturers made repairing this device too difficult
もしこれを分解した後、組み立てたいならぜひ頑張ってください!

計画的陳腐化の最も酷いケースは、メーカーが少なくともデバイスを損傷することなく、デバイス自体の開口を困難または不可能にすることです。「Surface Laptopは、最も修理しやすい指標のリペアビリティスコアが10として0と評価された唯一のデバイスです。たとえ修理テックでも、分解や修理ができないように設計されています。」とSuovanenは言います。「Microsoftはシャーシを超音波で溶接し、その上に布製のカバーを接着しています。破壊なしでの分解は到底不可能です。ガムテープを巻けば元に戻せますが、それ以外の方法はありません。」保証期間内であれば、メーカーが新しいデバイスを提供してくれるかもしれませんが、保証が終了していれば、基本的に新品のノートPCを購入することになります。

交換部品を提供しない。

In planned obsolescence, this battery replacement is difficult
Appleは純正のバッテリーを提供していません。交換用のバッテリーはiFixitのような信頼できる業者から購入しましょう。

メーカーが修理を防ぐ方法は、デザイン設計だけではありません。例えば多くのメーカーが、*個人ユーザーや修理テックに正規の交換部品を提供していません。車や家電製品の交換部品は手に入りやすい一方で、スマートフォンやノートパソコンでは難しいことがあります。また、メーカーがOEM(相手先ブランドによる生産)部品の販売しない場合、一般の修理ショップやユーザーはサードパーティ製の部品に頼らざるを得えません。しかし品質等の点で失敗することが多くあります。

性能の良くない低品質の模造品が市場に溢れていれば、良い部品を見つけるのはとても大変です。特にサードパーティ製のバッテリーは危険をもたらすものもあります。例えば安価なサードバーティーのバッテリーがデバイスを破壊したり、火災につながる危険性も潜んでいます。iFixitでは、できる限り高品質の部品を調達し、ストアで販売する前に徹底的にクオリティ検査を行っています。しかし他の業者から交換用バッテリーを入手すると、どんなクオリティのものが手に入るか保証はありません。メーカーから直接、正規の部品を購入することができれば、もっと簡単で安全なはずです。

たとえOEM部品を手に入れることができても、メーカーによっては最大限に活用できないよう制限を設けている場合もあります。「iPhoneのスクリーンを交換した時、他の同じiPhoneから取り出した新品のOEMスクリーンであっても、TrueToneなどの特定の機能が正しく動作しなくなります。」とJeffは言います。その結果、ユーザーはメーカーに直接修理を依頼するしか方法がありません。

不可能、もしくは高額すぎる修理

You have the right to repair your phone and recover your data
iPhoneのデーター回復は可能ですが、Appleは手助けしてくれないでしょう。

さらに独立系修理ショップで修理ができるにもかかわらず、メーカーが意図的に「修理はできない」とユーザーに誤認させることもあります。iFixitのリペアコミュニティの多くが修理方法を知っている一般的な故障でも、ユーザーはGenius Barを訪れます。Appleは誰でも修理できると認めていません。例えば、Appleは水没したiPhoneのデーターを復元することはしません。加えて、データーの復元が可能な独立系修理テックたちを紹介することもありません。結果的に修理の費用が高額になるため、多くのユーザーは修理を諦めて新しいデバイスを購入することになるでしょう。

修理が可能であることは非常に重要です。買い換えるよりも修理すれば、デバイスの寿命が延び、電子機器の廃棄を防ぐことができます。また私たちの財布の中にも少しお金が残ることでしょう。メーカーは消費者に新商品を買ってほしいと望みますが、私たちにはものを長く使うという、もっといい方法があるはずです。

*現在、Microsoft、Google、Samsung、Nokia、Motorolaなどのメーカーと共同して、iFixitウェブストアで交換用パーツの販売をしています。またAppleはセルフサービスプログラムを米国ならびに一部の欧州地域で行っています。