欧州議会がUSB Type-C充電コードを標準化へ。
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欧州議会がUSB Type-C充電コードを標準化へ。

この新ルールは、メーカー独自の充電コードを使用させるという圧力をなくすものです。

スマートフォンなどの家電製品に標準充電ポートを義務付ける、新たなEUのルールは、環境と消費者の家計簿にとって大きなメリットとなるでしょう。 

Fight to Repair blog(修理のために闘う)ブログのライターによって執筆され、iFixitブログ用に編集された、世界中から発信される修理ニュースです。

ビッグニュース:

E-waste問題に一石を投じた欧州議会: USB Type-C 充電器を標準化へ

2024年秋から、キッチンの引き出しの中を探ったり、充電アダプタの規格を確認する必要はなくなります。欧州議会はスマートフォンやタブレット、カメラを含む膨大な数の電子製品の共通充電ポートをUSB Type-Cと決定したことによります。 

今週発表された声明(2022年7月)の中で、欧州議会は特定の電子機器に対する単一の充電ソリューションを確立する暫定的な合意に達したと発表しました。この新法は、欧州圏内の電子製品をより持続可能なものにし、電子機器廃棄物(E-waste)を削減、消費者の生活をよりシンプルで快適にするための幅広い取り組みの一環です。 

Cord Sanity! 

新規則が施行されると、消費者は “新しいデバイスを購入する毎に新しい充電器やケーブルを揃える必要がなくなり、1つの充電器で全ての小型・中型のポータブル電子機器を使用できるようになります。携帯電話、タブレット、電子書籍端末、イヤホン、デジタルカメラ、ヘッドホンセット、携帯ゲームコンソール、有線ケーブルで充電するポータブルスピーカーなど、15種類の一般的な電子機器がこの規制の対象となります。製造メーカーに関係なく、USB Type-Cポートの搭載が義務づけられます。この規制の発効後40カ月までにノートパソコンにも同じ要件を適合させる必要があると、欧州議会は付け加えています。

また、充電スピードは高速充電対応に対応するデバイス間で統一され、対応する充電器であれば同じ速度で充電することができます。

充電コードの分断化にまつわる、過去10年間の取り組み

この新しいルールは、長年積み重ねられてきた努力の成果と言えます。欧州委員会は、充電インターフェースの市場とプロトコルの「分断化」の制限を検討してきました。以前より特定のプロトコルを標準化するために、メーカーとの話し合いは行われていましたが、Appleを含む多くの製造メーカーが、とりわけ携帯電話に関してはメーカー独自のインターフェースを推進していました。treehugger.comの記事によると、最新の議論では、製品のデザイン方法も対象に入れながら、循環型経済プロセスを促進する欧州グリーンディールの一部としてまとめられました。これは「修理する権利」も含まれます。メーカー独自の充電コードを廃止できれば、消費者が「不必要な充電器の購入」に費やす年間2億5000万ユーロ(約350億円)を節約できると、欧州議会は見積もっています。同時に、この新しい規則は自然環境にも多大なインパクトを与えます。これまでに廃棄された未使用の充電器は、年間約11,000トンもの電子廃棄物量に昇ります。しかし2024年以降、年間約18万トンの温室効果ガス排出を削減できると推定されています。 

環境汚染を伴う利益 

長年にわたって独自のLightningアダプタを含めて、多様な充電アダプタを発売してきたAppleは、この欧州委員会の動きに対して「市場で発売されるすべてのデバイスに対して、共通1種類のみのコネクタを義務付ける規制は、安全性やエネルギー効率を含めた充電規格における有益なイノベーションを妨げ、ヨーロッパの消費者に損害を与える」と反対を表明しています。

この規制は、少なくとも短期間にわたり、Appleの収益に直接的な影響を与えるでしょう。Bloombergの記事にあるように、Appleは、iPhone/ iPadユーザー向けにアクセサリを販売したいメーカーに対して、独自のアダプター技術をライセンス提供して何百万ドルも稼いでいます。例えば、Appleは標準3.5mmヘッドフォンジャックを搭載したiPhoneの製造を中止しました。この結果、ユーザーは修理不可能なワイヤレスBluetooth AirPodsやApple独自のLightningアダプタを搭載したイヤフォンジャックで対応するしかありません。 

高まる標準化への必要性 

しかし、製造メーカーが利益を「囲い込む」ために独自のインターフェースやプロトコルを使用している例は、スマートフォンやタブレットなどの個人向け電子製品だけに終わりません。iFixit CEOのKyle Wiensは、”この構造は自動車業界でも大体的に展開されており、事故回避や車線維持支援システムなどのドライブアシスト機能を含めた、あらゆるソフトウェア主導の機能が標準化されていない実情がある”と、「Fight to Repairマガジン」のインタビューで述べました。 

例えば、フロントガラスを交換した際に事故防止用カメラをキャリブレーション(補正)するツールは、自動車メーカー毎に全く異なるとWiensは指摘します。つまり、独立系の自動車ガラスを交換する修理業者は言うまでもなく、近所のサービスステーションでも修理対応は不可能です。「標準化、モジュール化を進めなければなりません。コンピュータ化された新しい未来に向かっているのに対し、私たちは標準化する努力を怠っています。」

その他のニュース:

DRM(デジタル著作権管理)が車椅子を狙う (Eff.org)

持ち運びできる製品は、いずれ壊れるでしょう。屋内専用に設計された製品が屋外で使用される場合は、さらにその可能性が高まります。しかし電動車いすのユーザーにとっては、修理や払い戻しに関する一連の方針がシステム全体に連動しているため、車いすが壊れてしまうと修理や手続きに数ヶ月かかることもあります。 

これは深刻な事態を招きます。車いすは、それを必要とする人々にとって移動という自由を与えてくれる必須の道具です。一方、壊れた車いすは、家族や友人、学校、職場との繋がりを奪い、自宅やベッドで過ごさなければならないという生活レベルの低下にさらされる可能性があります。また、車いすの故障はユーザーにとって大変危険で、重大な怪我につながる可能性があります。 

Public Interest Research Group (PIRG)が行なった報告書 Strandedでは、141人の電動車いす使用者を対象に、機械的・電気的故障の経験についてインタビューを行いました。  この報告書によると、車いすの故障が非常に多いこと(回答者の93%が前年度に車いすの修理を行い、そのうち68%が2回以上の修理を必要としています)、彼らは長期間にわたる修理の遅延にさらされてしまうこと(62%が修理の度に4週間以上、40%が7週間以上待たされている現状)などが報告されています。

この記事を開くと、保証対象外となります (Watershed Sentinelウェブマガジン)

修理ができないデザインとは、技術が進歩したり複雑化した結果ではなく、その対極にあるはずです。コンプレックス(複雑)システムサイエンスの先駆者であるW. Brian Arthur氏は、テクノロジー向上のための2つの主要なメカニズムを説明しています。それは既存のパーツを交換する「内部置換」と、新しい部品を搭載する「構造深化」です。

内部置換も構造進化も、新しい部品やコンポーネントをモジュール化し、交換可能、修理可能にするべきだという主張です。”複雑性”の本来の意味は”モジュール性”と”異質性”のことで、修理を援じる論拠があります。内部置換や構造深化の概念は、創造的なプロセスとしての修理の哲学といえるでしょう。修理から開発される新しい部品やメカニズムは、デバイスに新しいアプリケーションの可能性を広げ、製造の新しいアプローチをもたらし、アイテムの固有化に繋がります。創造的に修理されたデバイスは、社会的ネットワークと技術的ネットワークの融合です。しかし製造メーカーのロビー活動にとっては不都合なことです。つまりこのネットワークは資本蓄積の一つだからです。

剥がすと保証対象外のラベルについて、著者は次のように指摘します。

「デバイス内部を開けて見るのはルール違反です」と警告するシールを戦略的に貼ってユーザーの介入を防ぐ製造メーカーもありますが、実はそのシール自体が法律に違反している場合が多いのです。

– Harun Šiljak

存続の危機に直面する地元の修理ショップが、修理する権利の推進に貢献 (USPIRG.org)

現代のガジェットを修理する者をめぐる立法・法律上の争いは、強大な製造業のゴリアテと、地域の独立修理店などから成る小さくて勇敢なダビデ軍団との戦いのようです。 

修理ショップのオーナーたちは顧客を動員し、修理ショップのオーナー仲間たちに呼びかけ、メーカーの反対を押し切って改革に成功しました。修理ショップ経営者であり、著名なYouTubeホストであるLouis Rossman氏やRepair.orgはじめとする修理を要求する声は、ニューヨーク州議会が電子機器のための全米初の修理する権利の法案を可決した勝利に不可欠な存在でした。

FTC委員長、「修理する権利」を最優先事項することを明言 (Tirereview.com)

連邦取引委員会(FTC)のLina Khan委員長は、5月の下院歳出小委員会の公聴会で、違法な修理を制限するシステム撤廃を支持しました。「特にデジタル化が進歩すると、自動車メーカー側でどの修理を可能とし、不可能にするか操作できる機会やツールを与えてしまう」とし、これを「委員会の最重要課題」と表明しました。

自動車修理のコスト削減法(Save Money on Auto Repair Transportation)の共同提案者であるDavid Joyce議員(オハイオ州)は、修理制限によるアメリカ一般家庭に押し寄せる、自動車修理コストの上昇を強調しました。

「修理の制限、特に自動車修理のコストを押し上げる制限に少し注目しましょう。記録的なインフレのために、今年のアメリカの一般家庭は車のメンテナンスに、平均で約5,200ドル(約70万円)費やさなければなりません」とJoyce議員は言います。「軽い接触事故の修理費が平均で4,000ドル(約55万円)かかることを考えると、わずか5年で26.4%も上昇しました。車の所有者たちのためにメンテナンス費を下げたいなら、特許やデータ管理の乱用など、自動車修理の規制に関して、さらに踏み込んで何ができるでしょうか?」

FTC Khan委員長は、「2021 Nixing the Fix」報告書を引用し、現代の修理には「特殊工具、入手困難な部品、独自の診断ソフトウェアへのアクセスが必要となる」ことを指摘しました。これらの修理規制は「消費者製品の修理やメンテナンスを一層困難にしている」と主張しました。

トラクターを修理できるかどうかが、なぜ生死を分ける重要な事に繋がるのか (The Guardian)

修理する権利は一般家電製品のためだけでなく、農家だけに与えられる権利でもないことが、世界中がパニックに陥ったパンデミックの初期に判明しました。緊急事態にある病院は、治療に不可欠な医療機器の修理や点検を必要としましたが、医療器メーカーは修理マニュアルを提供せず、交換用パーツを供給しないことが明らかになりました。例えば、2020年3月、イタリアのある病院では人工呼吸器のバルブがメーカーから入手できない事態が発生しました。有志たちが3Dプリンターを設計し、1個1ドルの費用で100個の代替品バルブを製造しました。通常であれば、この有志たちはメーカーから知的財産権の侵害で訴えられていたかもしれません。しかし修理の権利は単なるマニアックなこだわりでけではなく、時には生死に関わる問題なのです。

翻訳:Doi Midori